【レビュー】Grippe (1991) / JAWBOX
- 妹
- 2021年11月6日
- 読了時間: 6分
■作品
アーティスト:JAWBOX
作品:Grippe (1991)
リリースレーベル:Dischord Records

泣く子も黙るポスト・ハードコアの伝説、JAWBOX の 1st Album。説明不要の名盤であると共に、90年代アメリカ ポスト・ハードコアを語る上で避けてはいけない超重要な作品――と、一言で済ませたいのだが、JAWBOX 自体知名度はあるものの、あまり語られないのが、今のハードコアシーンの実情である。(というか、2020年代に突入している今では、名前すら知らない人の方が多いかも知れない……悲ちぃ) 時代を経るに連れ、ハードコア界隈から彼らの存在が忘れ去られようとしている事を考えると、冒頭で"伝説"と紹介している事に「ちょっと過剰なんじゃねーの?」と思う方が大半かもしれない。だが、私としては、個人的な過大評価や病染みた妄想で誇張している訳でもなく、某大手音楽メディアサイトの記載をそのまま抜粋して、紹介しているに過ぎない。そこでは現に、"ポスト・ハードコアの伝説"と紹介されているのだ。長いものに巻かれる性格の私である。私はただ、それに従って、一語一句違わないそのままの文面で紹介した。それだけの事だ。まぁ、「メディアの情報が全て正なのか?」等の議論になると、まとまりがつかなくなるし、作品レビューという主旨から外れそうなので、とりあえず「誇張染みてる」でも「正当な評価である」でも、"伝説"という表現への感じ方は、人それぞれで問題ないだろう。
余談はここまでにしておいて、JAWBOX と言えば、第一に思い浮かぶのは、その中心人物である J.Robbins(Vo.&Gt.) だろう。近年だと、数々のEMO/ポスト・ハードコア名盤を手掛けた凄腕プロデューサーという肩書の印象が強いが、当時の観点で言うと、メロディアスなギターロックに傾倒し始めた 後期 Government Issue に ベースとして所属後、その流れを受け継ぎ、自らがギターを手に取って、マイクの前に立ち始めたばかりの1人の青年と捉えた方が近いかも知れない。(JAWBOX E.P.から2年経ってる事は置いといて)
そう考えると、この Grippe は、JAWBOX の中でも一際荒削りでもある。まだ方向性が定まっていなく、Goverment Issue の影が拭い去れないのは否めないのだが、それでも尚、アメリカンハードコア史で考えると、やはり、歴史に名を刻むのに相応しい作品だと思わざるを得ない。
80年代後半から、Dischord Records を中心に、それまでの暴力的なハードコアとは異なる、より純真に音楽性を高めるための挑戦的なハードコアが出現し始めた。(所謂ポスト・ハードコア) 80年代後半に多く見られたそれらは、あくまで"実験的"で"先鋭的"なハードコアが多かった。つまりアバンギャルド性が強すぎるがために、それを好む人間層は、一部のハードコア精通者や、社会に居場所がなくアングラシーンに傾倒していたキッズ達しかいなかったのだ。(その中には、NIRVANAやSonicYouth等、後に有名になるバンドメンバー達もいた。)しかし、90年代初頭になると、Fugazi の登場によって、そのアバンギャルド性を持ったハードコアがアメリカ全土に一瞬に広がった事で、アングラ音楽に対する世間の理解の下地が出来上がり、ハードコア関わらず、アングラシーンで発展していたそれまでアバンギャルドだった音楽達がそれに続いて、次々と躍進を遂げる事になる。(これ以降、Fugazi に影響されたグランジ、ポスト・ハードコア、EMO、ポップ・パンク等々のバンド達が、アングラ留まらず、世間一般のリスナーにまで聞かれるようになる。ちなみに、この現象を個人的には、"Fugaziインパクト"と名付けてる(白目))
Fugazi が爆発的に認知されるようになった理由としては、商業ロックに代わる程のインパクトを持ったその"オルタナティブな音楽性"もあるのだが、その他にも、当時のアメリカ政治や社会問題、商業批判等に異議を唱えるメッセージ性が、リスナーに強い共感を産んだいう事も一因だと思われる。それまでのハードコアとは異なる音楽性と、そのメッセージ性が、強いシナジー効果を産み、Fugazi という名がアメリカ全土に轟いたと、個人的には考えている。
Fugazi の代表作である Repeater(1990) の発売から約1年後に、今回のお題目である JAWBOX の Grippe がリリースされる訳だが、この作品がなにか音楽界隈に影響を与えたか?と言われるとそうでもない。しかし、前述の Fugazi の躍進の理由を踏まえていると、この作品の凄さに気づく事があるはずだ。
この作品――には、Fugazi のような顕著な"アバンギャルドさ"と"メッセージ性"が無い。
一見マイナス要素に聞こえるかもしれないが、これこそが、この作品の聴き所であり、ポスト・ハードコアがもう一段階次のステージに進んだと思われるポイントなのだ。
言い換えれば、ハードコアという音楽の根幹ともなる突飛なアバンギャルド性や社会批判というメッセージを捨てて、ただ音楽性だけを洗練させて、それだけで勝負しに来た"新しいハードコア"とも言えないだろうか?ハードコアに付随していた様々なしがらみを捨てて、ただただカッコいい"新しいハードコア"を披露したからこそ、ハードコアを純粋に、"聴かせる音楽"として洗練させたからこそ、"ポスト・ハードコアの伝説"なんて呼ばれてるのではないかと、個人的には思うのだ。
この Grippe は、その序章と捉えられる作品であり、粗削り感はありながらも、それまでのハードコア、ポスト・ハードコアとは一線を画す作品だと思っている。後期 Government Issueのメロディアスなギターロック路線を昇華しつつも、ポスト・ハードコアと呼ばれるに相応しい不協和音と癖強めな独特のギターリフやヒネたコード進行に、本来のハードコアが持つべき速さと荒さとは対のミドルテンポを主体としたリズム隊……それらが重なって、顕著なアバンギャルド性は見えずとも、周りのハードコアとは一味違うメロディアスなハードコアを展開している。この頃は、J.Robbins は、メロディアスさ重視に歌いあげようという印象があり、どことなくフワフワした感じが、粗削り感として現れているのだが、
それを含めても、Fugazi を始めとしたポスト・ハードコアバンド達と違い、純真な音楽性だけを求めて完成したこの"新たなハードコア"の出現は、ハードコア史の中で、絶対に無視してはいけないと個人的には感じている。
この作品だけでも、当時のハードコアとは一線を画す出来に仕上がっている事は確かである。しかし、JAWBOX ファンだからこその所感だが、この Grippe をリリースして2年後、彼らは、更に進化した名盤を Dischord Records から出す。そう考えると、この Grippe は、JAWBOX 伝説の序章にすぎず、これだけでJAWBOXを知った気になるのは些かお門違いであるという事を念頭に入れておいて頂きたい(白目)
■個人的に好きな曲
・Freezerburn (1曲目収録)
JAWBOX の魅力がこれでもかと詰め込まれているスーパーミドルチューン。当時のハードコアシーンの曲を漁っていれば、イントロのギターリフ導入を聴いて、「ハードコアが進化した」と感じるはず。どっしりと構えたリズム隊と、耳にこびり付く特徴的なギターリフで正々堂々聞かせに来るこの姿勢こそ、荒さと速さ、将又歌詞などに依存せず、純粋な音楽性だけで勝負しに来たポスト・ハードコアだという事が分かるはず。
・Tools and Chrome (3曲目収録)
JAWBOX E.P.(1989)の楽曲を再録したもの。JAWBOXの楽曲の中でも、比較的キャッチーで、後期 Government Issueのギターロック的な影響が色濃く出ている。ちなみに、私は、E.P.盤の方が好き(白目)
・Grip (6曲目収録)
アコギを加えた爽やかなイントロから、特徴的なリフで押し進むミドルチューン。ひと際癖も少なく、聴きやすい部類の音楽を展開しており、目立った楽曲ではないが、こういうアバンギャルド要素は感じさせずとも、細かいところを聴くと、ハードコアとしては挑戦的な事をしている楽曲をさらっと作っているのが顕著に分かる。JAWBOX の展開するポスト・ハードコアがわかりやすく体感できる楽曲。
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